ひのひかりゆらゆら

読書について。

「うすらこわい」が絶望に変わる『凶宅/三津田信三』ネタバレ感想

時々(しょっちゅう)、無性にホラーが読みたくなります。
前から気になっていた『凶宅』を読みました。
レビューを読んで、あんまり怖くないのかな〜? と思ってたら、とっても怖くて面白かったです。
ちょっと油断してたけどめちゃめちゃ怖かったよ!

得体の知れない不気味なもの

「いーい?お兄ちゃんだけに教えるんだからね 。絶対に内緒だよ 」そう念押ししたうえで話しはじめた 。昨日の夜、彼女が両親の寝室のベッドに入っていると 、この山に棲んでいるというヒヒノが部屋に来た話を…… 。

いいですねー!
『凶宅』の主人公は翔太くんっていう10歳の男の子なんですけど、このたび山の麓の家に家族揃って引っ越してきたわけです。 その家で怪異が起きるわけですが…。 引越しの翌朝、その妹の李実(ももみ)ちゃんが言うのです。
山に棲んでいる、ヒヒノという人間のような「何か」が部屋に挨拶に来たと。
ヒヒノっていう名前がいいですよね。怖さと、得体の知れなさと、なんとなく神聖な響き。まあ、ネタを知ってしまうと神聖もへったくれもないって感じなんですが。
しかもヒヒノだけじゃない。このあとにも新しいヒヒノの仲間が登場する。また、翔太くんたちより前にこの家に住んでいた女の子の日記にも、「仲間」と思われるものが現れる。その名もドドツギ。こっちはなんとなくお茶目な感じですね。でもやっぱり、この得体の知れなさがうすらこわい。
この「うすらこわい」っていう感覚を呼び覚まされるホラーって大好きです。

幸平くんの存在

幸平くん。主人公の翔太くんが、引っ越して来てできる初めての、というか、唯一の友達です。
この子がほんっっとに人間のできた、器の大きな良い子なんです。
健気で誠実で勇気があって、ほんとに幸せになってほしいなあ。できれば翔太くんとの友情がおじいちゃんになっても続くと良いなあ、できれば……。

トウコの日記

翔太くん一家の新居は、怪異の起きるお化け屋敷です。それまでに3組の家族が住んでたようなんですが、トウコちゃんというのは、その中の1組の家族の長女です。
彼女は小学生とは思えない文章で日記を綴り、次第に起こる怪異を詳細に書きのこしていました。(日記の文章が小学生のわりにうますぎて青い鳥文庫読んでる気持ちでした。)

「ほんまに、ちゃんと最後まで読んだか」 幸平は震える指先で、問題の日記を指差した 。 「えっ、そのつもりだけど―― 」 怪訝そうに翔太が 、日付の滲んだ八月十六日の次の頁をめくると 、そこは白紙だった。もう一枚さらに、何気なく頁をめくったとたん、その言葉が目に飛び込んできた。 山の家に住んじゃダメ !今すぐ 、にげて !

ひいい! こういうのぞっとする!
それにしてもほんとうに、トウコちゃんは誰に読まれると思ってこれを書いたんだろうか…。

お母さん

いいお母さんですよね。お姉ちゃんも。なんか、こういう話には珍しく、大人が親身になってくれて、これで解決するかもしれない、とちょっとホッとしたのにーー

怒涛のクライマックス

ほんとうに怖かったです。明かされるヒヒノたちの正体! あの「うすらこわい」がはっきりと恐怖と絶望に変わる瞬間、雰囲気だけで怖がらせる系かと思ったらめちゃめちゃ怖いじゃないか!
しばらく固まってしまいました。
それにしても翔太くん勇気があるし冷静だしすごい。私だったら、ヒヒノたちに立ち向かうなんて絶対無理です。
そしてラスト。もう本当に十分でしょうと。やめてあげてよと。
どうにか、翔太くんには乗り越えてほしいです。幸平くんとともに、がんばれ!


凶宅 (光文社文庫)

凶宅 (光文社文庫)