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スクールカーストごときで人生に絶望しないでよね『教室が、ひとりになるまで/浅倉 秋成』ネタバレ感想

一生、ゆりかごから墓場まで、ゴミみたいな馬鹿どもの支配は、共存は、永遠に続く。誰もあなたを一人にはしておいてくれない。

この物語のテーマとして、いわゆる「スクールカースト」のもとで苦しむ高校生たちの苦悩がある。
「みんなで」いいクラスを作ろうとした「スクールカースト」上位者が次々と自殺していく。
その死を悲しむもの、喜ぶもの、内心喜ぶ自分をクズだと抑えようとするもの。
日本で普通科の高校生活を過ごした人たちのなかで、「スクールカースト」と無縁でいられた人はどれほどいるのだろう。

圧巻だったのはタピオカドリンク屋のバイト大学生、のり子さんの熱弁。この人天才なのかと思った。実際書いてるのは作者なんだけど。

「あたし当時さ、真剣に考えたの。これってなんだろうって。そしたらわかったんだよ。(中略)そしてあれは『上』の人が勝手に始めた『軍事力』を最大にすることを目的にした『富国強兵ゲーム』に巻き込まれてただけなんだ、って」

スクールカースト」の『上』に立つ存在であろうという原動力を、『軍事力』を持つことと見立てているのだ。
自分の意見を通したい、そういう欲求が強い人ほどこのゲームの参加モチベーションが高い。
そして『軍事力』とは『暴力』なのだ。実際に使うわけでなくても、『暴力』をふるうことができる、その気配だけで相手を威圧できる。

「(前略)面白いのは、顔がよくて運動ができる男子でも、美人で性格のいい女子でも、いくら上等な恋人を手に入れたとしても『上にいきたい』、『富国強兵ゲームに参加したい』と思わない生徒たちは、階級が『下』だと認識されてしまうところ(後略)」

これも、思い返せば確かにそうだった。
あまたある高校生をターゲットにした小説の中で、散々語られつくしたと思っていた「スクールカースト」への『富国強兵ゲーム』というコンセプトの鮮やかさ。
のり子さん、いいなあ。
そしてのり子さんは言う。

「(前略)誰も彼らから舵を奪えない。教室中のありとあらゆる富を彼らは独占し、『下』の人間に一生消えない、入れ墨みたいに強力な劣等感を植えつける」

そう、こんな風に、この物語の中では、「スクールカースト」による苦しみは一生続くのだ、と繰り返し説明される。
冒頭の引用もそう。
そうなんだけど、そうなんだろうか。と学生を終えて長くなった今では思う。
もちろん、その記憶は一生続くし、人付き合いも一生続く。
そりゃそうだ。富士山の上でおにぎり食べた記憶だって一生続くだろう。
暴力におびえるのは人間の本能だし、自分の意見を通したいと思う人もたくさんいる。私だってそうだ。
でもだからといって、人間、社会に出てまで本能むき出して生きている人はそんなに多くない。いや、場所によるのかもしれないが。
人間には本能が備わっている。そして理性もある。
人間は考えることができるし、それを武器にすることもできる。
『富国強兵ゲーム』というコンセプトを導き出せる知性だってあるわけだ。
理性があると何ができるのか。自分の軸を見定めて、それにあった場所を選ぶことができる。
もちろん、それにあった努力は必要だし、いうほど簡単ではないし、私もそんなにできてないけど。でも、「必要ならできる」ってことを知っている。大人だから。

運動ができる、勉強ができる、外見がいい、お金を持っている、友達が多い、そういうことも素晴らしい。
でもそれって誰が見ても素晴らしいってわかることで、それだけで人をはかるのってちょっと浅くてつまんないなって思っちゃう。
誰でもわかるような魅力を持ってる人は素晴らしい。誰でもわかるような魅力でしか人を判断できない人はつまらない。
何が言いたいのかっていうと、年を取るほど人の価値観ってバラバラになるし、どこで人を見るのかだってバラバラになるってこと。
他人の価値観は、年を取るほど自分への影響力が低くなってくこともあるかもよってこと。 教室の中で息をしづらい子は、大人になると息がしやすい環境を選べるかもよってこと。
学生のときに気づくのは難しいんだけどね。経験がないから。
自分の軸を探すのって時間と手間がかかるので。「自分の軸ってこれかな?」って探してみて、ちょっと過ごしてみて、あってるっぽいなとか、どうも違うなとか、そうやってだんだん固まってくものなので。
そして一生変化し続けるものなんだよね。

だからね、高校生でスクールカーストをもとに人生ずっとこうなんだとか思っちゃうのは早すぎるよね。気持ちはとってもよくわかるんだけどね。
これは別に誰に言いたいってものでもなくて、しいて言うなら高校時代の自分に言いたいだけなんだけどね。
主人公の垣内くんがこの物語の最後で見つけたものが、これからの軸のひとつにきっとなるんじゃないかな。
とにかく、スクールカーストごときで人生に絶望するなんて早すぎるよ!